ーー芦沢さんは〈essence:〉に通われている方のご紹介でいらしたそうですね。
芦沢さゆり(以下、芦沢) そうです。何をやっているのか気になっていた人がいて、思い切って聞いてみたんです。「何かやってるの?」って。そうしたら「興味があったら紹介するよ」と言ってくださって。
ーーその方から、興味を引かれるような変化を感じ取られていたのでしょうか。
芦沢 そう、何か……変化というか、楽しそうな感じというか。 私が知らない、新しい世界みたいなものがちょっと匂ったんですよ(笑)。
ーー芦沢さんのアンテナに引っかかったんですね。
芦沢 「何か素敵そうなことやっているな」と感じたんです。2年前くらいのことですね。
ーー資料として、芦沢さんのこちらに通われる以前と、その後のお写真を拝見しました。率直に言って、同一人物とは思えないほどの変化をされているなと思いました。
芦沢 あの写真、見られました?(笑)
ーーはい、見ました(笑)。以前のお写真からは「ボディーセラピスト」というご職業のイメージと、 髪型・髪色などの雰囲気と合わせて「確かにそれっぽい感じがする」という印象を受けましたが、 現在のお写真からは「一刻も早く、この人の教室に通わせてください!」と思わされるような説得力がありました。ご自身でも、お写真の影響というのは感じられていらっしゃいますか?
芦沢 もちろんです、もちろんです(笑) 。自分のことって、自分ではよくわからないじゃないですか。人生の時間は地続きですから。でも、少し俯瞰して見てみると、これまでとは全く違う世界線に来ているかのように感じます。
ーー今では逆に、周りから「何かやってるの?」と思われたりもしていそうです。
芦沢 思われています。もう、すごいですもん。写真の反響が。
ーー本当にすごい1枚だと思います。遡って、初回セッション時の手応えというのは覚えていらっしゃいますか?
芦沢 はい。これまで、お友達や親しい人たちに褒められたり、肯定してもらったりしても、 それはもちろん嬉しいことなんですけど、どこか小さい世界の話だと思っていて。でも、キャリアや実績のある高城さんに、色んな言葉をかけてもらうと、静かな自信になってくるというか。「あぁ、自分のことをもっと認めていいんだ」という気持ちを思い出させてくれる力があると感じました。
ーー芦沢さんのお仕事やそのキャリアから、それだけでもう自分への満足感、肯定感が得られてもおかしくなさそうだと想像していました。
芦沢 自己肯定感や自己承認のようなものって、 そういうことで満たされるのではないんだと思います。そもそも「自己肯定がない」と、自分では思っていませんでした。むしろ、ある方だと思っていたんですけど……心の奥底の澱のような、溜まっているものって、自分だけではなく、ほとんどの人にあると思うんです。女性にも男性にも。高城さんは、それをふわっとあげてくれたというか。パッと見は楽しそうだし、元気そうだし、自分でもそうだとは思っているんだけど、人に見せない、自分でもあまり気付いていない部分がある。そこに光を当ててくれたような感じがします。
ーー高城さんには、初回セッション時の芦沢さんは、どのように見えていましたか?
高城裕子(以下、高城) お話を伺ってみて、哲学者に近いというか、人生の原理原則や摂理みたいなことをすごく理解して探求している人だと思いました。色んな視点を携えたマスターのようでもあり、人を惹きつけるリーダーのようでもあり。その第一印象から「この人の魅力をどういう風にみんなに伝えよう」と考え始めました。
ーーけれども、その当時、芦沢さんの見た目からの印象と、高城さんが感じた芦沢さんの魅力は一致していなかったわけですよね。
高城 そうです。元々、おしゃれな方だけれども「いやいや、もっと」と思ったんです。 人を惹きつける力を持っている方だからこそ、それをしっかりと出していこうと。
ーー現在の芦沢さんには、その「一致感」というのはあるのでしょうか。
芦沢 一致してきた感じがあります。当時は、高城さんがおっしゃってくれていたことと、自分のやっている表現がズレている感じがあったんですね。どこか上手く跳ねることができない、脚がもつれるような感覚といいますか。
ーーただ、その当時からすでに、お仕事自体は人気だったんですよね。
高城 すごい人気でした。
芦沢 でも、自分的には噛み合っていない感じがしていたんです。
ーー高城さんとのセッションを重ねていくなかで、徐々にフォーカスが合っていったのでしょうか。
芦沢 そうですね。
高城 分岐点になったのは、通っていただけるようになってしばらくしてから、こんなにも自分を持っているリーダーなんだから、スタイルを露わにしようと思い、思いっきりベリーショートにしちゃって。
芦沢 あの出来事は大きいですよね。しかも、特に確認もなく(笑)。
一同 あはは(笑)。
芦沢 「切ってもいいですか?」じゃなくて「切りますね」でしたからね。でも、切っても違和感がなかったんですよ。
ーーもちろん、その段階ですでに、芦沢さんとの関係性が構築されていたからというのはあるかと思いますが、大胆なアプローチですね。でも、仕上がりが見えていたわけですよね。
高城 はっきり見えていたので、迷いがなかったです。芦沢さんを型にはめるのではなく、芦沢さんという型を作らなければと思っていました。
ーー先ほどもお話に出てきたお写真もそうですが、現在の芦沢さんの佇まいから感じられる説得力からどうにか逆算して、2年前の状況というのを想像しながらお話を聞いています。当時の芦沢さんも、メイクや髪型に興味がなかったというわけではないんですよね?
芦沢 興味がないわけではなかったんですけど、 やっぱり、どうしたらいいのかがわからなかったんです。自分自身を「一致感」を持って表現できるメイクや髪型、あるいは、そういう心持ちみたいなものがよくわからなかった。 正解がわからなかったんです。
高城 芦沢さんは、おしゃれで洗練もされていました。隙もなければ、突っ込みどころもない。けれども、芦沢さんの持っている存在感をさらに突き抜けさせようと思うと、おしゃれやトレンドとは違うアングルからのアプローチが必要になってくる。
ーー興味深いです。一般的に「おしゃれ」と聞くと、それだけでも存在感がありそうだと感じますが「その人の存在感」を基点に考えると、話が変わってくるんですね。今、おしゃれなのかどうかは関係がないというか。
芦沢 そういう本質的なことを高城さんが、セッションを通じて自覚させてくれました。
ーー具体的には、どのようなセッションだったのでしょうか。
高城 芦沢さんは骨格が美しく、立体的なんです。頭の形も、目鼻立ちもすごく綺麗。だからこそ、生き様も「らしさ」も全開で表現できる、ベリーショートがとてもお似合いです。また、洗練のその先へと突き抜けていきたいわけですから、一流のスタイリストに「ステージを上げてほしい」と頼みました。シンプルで、最高に上質なものを着ていただく。それによってむしろ「飾っても飾らなくても、自分にはこんなに魅力があるんだ」ということを感じていただこうと。また、メイクも服もシンプルに徹し、芦沢さんが持つ光の強さを際立たせることに終始しています。
ーー高城さんは、ご自身のお仕事を彫刻に例えて、何かを付け加えていく、装飾していくのではなく、その人を彫り出していくと説明されていますが、完成した芦沢さんのスタイリングは、まさにそれを象徴するような仕上がりと言えるのではないでしょうか。
高城 メイクやスタイリングは、その人に相応しい未来を具体的に見せる方法、魔法だと思っていて。「あなたはこうです」というイメージに直結するものだからこそ、形になったときにとても強い。
芦沢 メイクについても、高城さんは複雑なことはさせないんです。自分での再現性があるから、毎日そのメイクができるし、毎日鏡で見るその顔にどんどん慣れてくるんです。そうしているうちに、セルフイメージが定着してくる。
ーー高城さんから教わるメイクは難しいものではないんですね。
芦沢 難しくないんです。道具の指定もしていただけるので、迷わなくていい。変に探す必要が全くない。これって、すごく楽なんですよ。
高城 女性って、どこかずっと気にしているんですよね。
芦沢 そう、ずっと探しているんです。
高城 中学生、高校生……いや、もっと前からそうなのかもしれない。
芦沢 それに終止符が打たれたことによって、毎日の心配が一つなくなる。それに心を割かなくてもよくなるんですよ。「これでいい」でメイクを選ぶのと「これがいい」で選ぶのとでは全く違うんです。
ーーすでにたくさんのお客様を抱えていたけれど、そのことが芦沢さんご自身の「存在感」を自覚させるわけではないというのも、すごく深い話です。
芦沢 謙遜というか「いやいや、全然そんなんじゃないんで」「みんなが集まってくれるのもこんなに小さい世界の話ですし」と、どこかで「調子に乗ってはいけない」と思っていましたね。それが、セッションを重ねるなかで、徐々に一致していって「自分のままでいいんだ」と思えるようになってきました。そのことを忘れていたり、違う方向に行ってしまったり、迷ったりしていただけで、帰ってきてみたら「元々そうだったじゃん」と。そう気が付いたときの人の強さを形として見せてくれました。
ーー装飾や自分が築き上げたものからではなく「最初から自分だったこと」を認められることで、「ありのままでいること」に辿り着けるという。メイクにもスタイリングにも通じる、根本的なことなのかもしれません。
芦沢 メイクやスタイリングはあくまでも道具で。メイクをした=自信を得られたということではないんです。だから、自分の仕事においても、道具を特別視しなくなりました。「これをやったらこうなる」「これをしていればいい」という思考に陥ってしまいがちなんですけど、そうじゃないんです。その人が今、何を見ようとして、何を明らかにしようとしているのかにもよるし、その人自身のフェーズにもよる。人それぞれ、響く場所も時期も違うというのを実感させてもらいました。
ーー「ありのままの自分」と言うのは簡単ですが、そうであることが一番難しいと思います。
芦沢 「本当はそうだった」って、そうじゃないことをたくさんしてきた人にしかわからないと思うんです。散々やってきて「え、しなくてもよかったんだ」と、やっとわかる。色んな失敗をして絶望した経験が、気付かせてくれるんですね。
ーー目が覚めるような感じなのでしょうか。
芦沢 それに気が付いたとき、私は崩れ落ちたんですよね。「何やってきたんだろう」って涙が出ちゃって。「努力してこれを手に入れて」とか「何かになろうとして」とか、そんなことばかりやってきたんですよ。本当に。勝手に希望を見て、勝手に絶望し、全部勝手にやってるんですけど、それもこれもいらなかった。余計なことばかりしていたんじゃないかって。
ーー何かになろう、誰かになろうとすればするほど自分とは遠くへ行ってしまう。
芦沢 すごく遠回りしていますよね。探し物のためにすべての部屋を見てまわり、見つからなかったと最初の部屋に戻ったら、そこにあった。でも、それをやってきた人は強いんです。
ーー「最初から自分だった」というのは真理だと思いますが、実際にはそこに至るまでに試行錯誤をして、たくさんの発見やガッカリ、アップダウンもくりかえして来たからこそ、納得ができる。それまでの経験がとても大切なんですね。
芦沢 たくさん失敗した方がいいし、たくさん間違えてもいい。それを経験すると、いつか大切なことに気が付くフェーズがやってくる。たぶん、私が5年前に高城さんに出会っていたとしても〈essence:〉には来れていないと思います。
ーー自分がそのフェーズにはいなかった、と。
芦沢 でもね、人生ってすべてがベスト・オブ・ベストなんです。良いことだけがベストなのではなく、すべてがベストでしかない。
ーー素晴らしい言葉です。最後にぜひ、芦沢さんの今後の展望をお聞かせください。
芦沢 それこそ2年くらい前までは、わかりやすくて確固たるメソッドのようなものを欲しがっていた部分もあったと思うんですね。でも今は、自分が自分を発揮出来る場所に連れて行って、その自分を見て誰かが爽快感を感じたり、別の人は「シンプルでいいんだ」と気が付いたり、思い込みの枠が崩れていったりするような、「安心できる場所」のようなものを作っていきたいです。そこで何をやるかといえば、その時の私のベスト、フィーリングに合うことをやればいいだけ。常にフレッシュであることを恐れずにいたいです。