ーー高城さんは、石川さんをお迎えした際に、石川さんの本日の出で立ちを見て感激されていましたね。
高城裕子(以下、高城) 感動してしまいました……。先日「Styling essence」のコースでスタイリングをさせていただいたんです。スタイリストさんと、石川さんの背景や(社会における)役割、メンタリティなどを共有したうえで、ヘアメイクとあわせて全身で、これまでのイメージを刷新させていただきました。お洋服を着こなすお姿を拝見して、本当に素敵で……。
ーー石川さんは〈essence:〉には2年ほど通われていらっしゃるとのことですが、継続されてのご自身の感想、変化などはいかがでしょうか。
石川靖子(以下、石川) ここに来るまでがどうだったかというと、私は、鏡を見るのがすごく嫌いで。自分が人から見られるのも嫌。写真なんて以ての外ですよね。集合写真など、どうしても撮る必要がある時には、隅の方でチラッと写るようにして。それくらい嫌いだったんです。それが、初回のセッションの時に、髪型やメイクを大きく変えてくださって、高城さんに「これが素の顔なんですよ」と言っていただいたのですが、素というかすごく綺麗になっているわけです。(化粧を)厚くしているわけでもないのに、雰囲気が変わった自覚があったんですね。それから、少しずつ鏡が見れるようになり、写真を撮られる時も、何が何でも端じゃないと嫌ということもなくなってきて。……今はまだそこまで自分のことが好きではないんですけど、でも、以前に比べると、自分に対してのヘイトがすごく減りました。自分の受け入れ具合が変わったというのが、一番大きいですね。 受け入れ可能になってきた感じがしています。
ーー周りの方も気が付かれるような変化だったのでは?
石川 そうですね。親しい人にはすごく変わったと言ってもらいましたし、会社の人には、15年くらいロングだった髪をバッサリ切ったことが印象的だったみたいで。周りで、髪を切るのが流行りました(笑)。
ーーそれはすごいですね!(笑)
石川 「あなたも切ったの? えっ、あなたも?」というくらいに連鎖していきましたね(笑)。
ーーそれくらい、変化が伝わっていたということですね。でも、髪が短くなったのが分かりやすかっただけで、本質はそこではないですよね。メイクに関してはいかがでしょうか。
石川 以前は、美容が好きな子に綺麗にしてもらったりはしていたんですけど、元々好きではない自分に「何をどうしたところで」と思っていたんです。だから、周りのみんなが良いと言うならそれをやろう。違うと言うならじゃあやめよう、というような感じでした。あまり自分の顔に興味がなかった……いや、むしろ、興味がありすぎて見られなかったのかもしれないです。それが、高城さんにメイクをしていただいたら「こんな可愛い色が」ではなくて「これが私に似合う色なんだ」と腑に落ちるようになりました。教わったメイクも簡単で、短時間で出来てしまうのに、似合っているんです。
ーー少し遡ってお話を聞かせていただきたいんですけれども、こちらのサロンはどういったきっかけで知られたのでしょうか?
石川 仕事で、人前で喋る機会がありまして。それまで通りのメイクでもいいかと悩みましたが、やはり「さすがになぁ」と。通っているパーソナルジムのトレーナーさんに、メイクに詳しいお知り合いがいないかと相談してみたところ、高城さんを紹介していただいたんです。
ーー最初はいわゆる「メイク教室」のようなところを探していらしたということですね。
石川 むしろ「ただメイクしてくれるだけのところ」だと思っていました。お話を聞いてみると、想像とは少し違ったわけなんですけど、こちらのサロンがどういったところなのか、どういったことを目的としているのかを丁寧に説明してくださって。私の今までの背景を知ってもらうような問診から始まり、どのような手順で、ということを聞いたら、このサロンが目指しているのは「その場限りの美」ではないんだとわかったんですね。
ーー説明を踏まえて通うかどうか、想像していたところとは違って、時間もお金もかかるわけですし、一歩踏み出すのはなかなか勇気が必要ですよね。
石川 はい。でも、高城さんのお話を聞いて、これだけ真剣に人の魅力を引き出すことを考えている人に、自分を見てもらったらどうなるんだろう。私にプラスになるかもしれない、もっと自分のことをわかりたいと思ったんです。
ーー高城さんは、初回セッション時にどのようなことを考えていたのでしょうか。
高城 石川さんは、お話を伺えば伺うほどキュートで、同時にユニークさも持ち合わせた、本当に魅力的な方なんです。でも、どこかでバリアを張っていて、それが魅力を閉じ込めてしまっていることも感じられました。なので、私に見えている石川さんの魅力やイメージを全力で証明して、ご自身にご自分の魅力をわかっていただこうと思いました。それをお伝えするために――〈essence:〉ではお客様をお迎えする際に、その方を思い浮かべてお花を生け、場を作らせていただいているのですが、サロン全体をチューリップでいっぱいにさせていただきました。
ーーそれは、かなりインパクトがある光景ですね。
高城 石川さんは、製薬に関する研究をされていて、その研究によって未来を変え、ひとの命を救う方ですから。石川さんの中に宿る、光のようなものを表現したかったんです。
石川 本当に素敵でした。
ーーご自身では想像されていなかったお花かもしれませんね。
石川 全く想像していませんでした。それから私の携帯の待ち受け画面は、ここで撮影させていただいたチューリップなんです。
高城 チューリップは親しみやすさもありながら、とてもキュートでユニークなお花です。大勢でいることも出来るし、1本でも様になるという孤高の花でもあって。石川さんは、そういう存在感をまとった方であると思っています。
石川 「そうなりたい」と心のどこかで思っていたことを拾いあげてくださったような気がします。「憧れていたものになれるんだよ」と、スキルや言葉で見せてくれる。仏師の方は「木から(そこにいる)仏様を彫り出す」というのを聞いたことがあるのですが、高城さんはそれに近いのかもしれません。原石だった私の、一番なりたかった自分を彫り出してくださったんです。
ーー「鏡を見るのが嫌だった」とおっしゃっていましたが、そんな自分を変えたいと思っていらしたのでしょうか。
石川 振り返ってみると、そうだったのかなと思います。でも、その時はそこまで考えていなかったですね。私、ここに来るまで、自分で自分のことをそこまで嫌いだと自覚していなかったんですよ。鏡が見られない、写真を撮られたくない、それが普通だったので気が付いていないんです。ここでのセッションのなかで「それは違うよ」と、高城さんに以前の自分と引き離してもらったことで、その差によって初めてそうだとわかりました。
ーー高城さんの技術的なことなど、印象に残ったことはありましたか?
石川 初めてサロンに来た時に、私の“メイクの取扱説明書”のような冊子をいただいたんですね。「いつ、誰が、私のことをここまで考えてくれたんだろう」と思うほどの内容で、これだけでもこの人に委ねてよかったと思いました。そして、セッションの内容が想像を超えてよかった。本当に「鏡が見られる」と初めて思ったんですよね。また、人の扱い方が丁寧で。肌の触り方にしても「大事にされている」というのをすごく感じられました。
高城 石川さんは、ご多忙の合間を縫ってこちらに通ってくださっているのですが、ある時、あまり元気がないように見えた日があって。夕方頃だったと思うのですが「ご飯は食べてこられましたか?」とお声がけさせていただいて。まだ何も食べられていないとのことでしたので、簡単なものしかありませんでしたが、だし巻き玉子を焼いて、あたたかいご飯とお味噌汁をお出ししました。
石川 美味しかったです。本当に美味しかった。そこで初めて「ちゃんとご飯を食べてなかった」と気が付きました。
高城 メイクアップで綺麗にするということも大切なのですが、何よりも「自分を大事にしてほしい」ということをお伝えしたかったんです。
ーーお二人から「(自分を)大事にする」という言葉が出ましたが、人から大事にされることへの嬉しさ、喜びを感じられたということでしょうか。
石川 すごく感じました。人と人のあいだには「利害関係」というものがあるじゃないですか。人を大事にする時に、どこかで「自分が得になるように」と考えてしまったりもする。でも、高城さんからはそれを全く感じなかったんですね。そこが高城さんのすごいところだと思います。100%で「そうしたい」。見返りを求めずに「大事にしたい」というのが伝わってきました。
高城 人の美しさは、満たされることから始まると思っていて。技術的なことは後からいくらでもついてきますが、自分は大事なんだ、大事にされる人間なんだという実感が、すべての原動力となるんですよね。
石川 高城さんが大事に扱ってくださることで、自分を疎かにしてしまっていたなと気が付きました。
ーー自分を大事にすることで、メイクやスタイリングへの意識も行き渡る。すべては連動しているんですね。
高城 石川さんは、初回セッション時から現在に至るまで、目を見張るほど綺麗になられていて。いまでは、自分を知り、自分を認める力強さを感じています。
ーー〈essence:〉に通われてから、心境にも変化はありましたでしょうか。
石川 初回のセッションの時に「素顔よりも素顔のようなメイク」をしてくださるとおっしゃっていて。服も一緒で「自分になった」のかなと。パーツではなく、私としての一部になったという感じがしています。
ーーこれからの時間で、その一致感はさらに高まっていくかもしれません。
石川 その可能性はかなりあると思います。それと、自分を受け入れ始めたので、自分の感情に良くも悪くも素直になれるようになりましたね。今まで抑え込んでいた部分も抑えなくていいやと思ったり、嫌いなところが好きにもなれて。同時に、自分に苛つくことも増えたんですけど、だからって落ち込まない。「これが私」という受け入れ度合いが大きくなることで、人に何かを言われたとしても批判とは受け取らなくなりました。アドバイスだとは思う。でも「それを聞くかどうかは私が決める」という。
ーー「おしゃれ」を見極める基準の1つには「トレンド」や「時代性」があるかと思いますが、逆に「自分がある」という人にはそこまで必要がないのかもしれません。現在の石川さんは、すでに別の領域で楽しまれているように感じます。
石川 流行が「彩り」になりますよね。それに左右されるのではなく、それがあるから選択肢が増える。その時を楽しむための「彩り」だと感じています。
ーー〈essence:〉とは「本質」という意味ですが、石川さんが日々のなかで大切にされている「本質」はありますか?
石川 まだ見つけられていないと思います。ここでは色んな選択肢が見えるような状況を整えてくださっていて、これでいいかも、こうなりたかったかも、これが本当の自分だったかも、と感じられても、まだまだ見分けがついていないような気がするんです。だけど、この「憧れ」そのものも「自分」に含まれているかもしれないと、少しずつ気付き始めている段階なのかな、と。
ーー今日、石川さんに初めてお会いして、すでに何かを確立されている方なのだろうという印象を持っていたのですが、ご自身ではまだそのプロセスにいると感じられているんですね。
高城 毎回、石川さんをお迎えすることが楽しみなんです。ドアを開ける度に「どんな変化をしているだろう」と、その一瞬から感じられる印象を大切にしています。これからも変化を見届けさせていただきたいですし、人生という映画を見させていただいているような感覚です。メイクアップは、その変化を汲み取り作っていくものなんです。
ーー最後に〈essence:〉の哲学は「あなたの鏡になる」というものですが、このサロンは鏡が嫌いだった石川さんの鏡にはなれていますでしょうか。
石川 そうですね。本当に優秀な鏡すぎて、最初は「そんなわけがないだろう」「何を見せられているんだ」と思っていました。それが、いつの間にか「自分」になっている。「未来を映す鏡」なのかもしれませんね。